2016-12-30

アメリカの就労ビザ

ソフトウェアエンジニアのみなさん、すでに気軽にアメリカ移住を考え始めたと思うんですが、ここでアメリカの就労ビザについてもうちょっとつっこんで書いときましょう。

この記事は「ソフトウェアエンジニアに特化した、アメリカ就労ビザのガイド」です。細心の注意を払ったつもりで書いてますが、所詮はチラシの裏なので、実際は「リクルータを通して」「会社が雇っている」「海千山千な移民弁護士に」「相談」してください。個人個人、学歴/経歴/ポジションが異なるんですから、当然ビザ申請におけるストラテジーも異なってきます。(追記: ちなみにこの記事は、ぬか喜びを防止するため、若干nagativeな感じにふってあります。まずは面接受けてオファーもらうところから始めたらいいかと思います!)


まずは「H-1Bビザの抽選」について。

USCIS(U.S. Citizenship and Immigration Services、米国移民局)自ら "lottery" 言うてます。

https://www.uscis.gov/news/alerts/uscis-completes-h-1b-cap-random-selection-process-fy-2017

a computer-generated random selection process, or lottery, to select

どーいうことかというと、毎年H-1Bビザは、新規に 65,000 しか発行しません。今年は、そこに 236,000 人申請したわけです。つまり、236,000人中65,000人しか、H-1Bビザはもらえません。だから、30%の当選確率ということになります。

実際は、例外があるんですね。特定地域は別枠になってたり。われわれに少しでも関係あるものは「the advanced degree exemption」です。

アメリカの大学院を卒業(advanced degree)していれば、上記65,000以外に「the master's cap」といわれる別枠に入れるんです。


算数をしてみます。

FY 2017(2016年4月申請)は、申請数 236,000。

うちadvanced degree申請数をNとします。USCISは公表してないので。

master's capが20,000。

つまり当選確率は 20,000 ÷ N。

仮に N=40,000 とすると 20000/40000 = 50%

50%なら、なかなか良さそうです。で、終わらないのがthe advanced degree exemption。


このmaster's capに対する1回目の抽選で外れても、そのあと通常枠で再抽選されるんです!

計算式はこうなるはずです。

(20,000 ÷ N) + (1 - 20,000 ÷ N) × (65,000 ÷ (236,000 - 20,000))

仮に N=40,000 とすると

(20000 / 40000) + (1 - 20000 / 40000) * (65000 / (236000 - 20000)) = 65%!

これは当たりそうです。


でも、世の中そんな甘くない。

http://www.iie.org/Research-and-Publications/Open-Doors/Data/International-Students/Academic-Level/2014-16 によれば、学校卒業後の就労申請による2016年のOPTは 147,498人 だそーです。

このOPT全員がH-1Bビザを申請するとすると、N=147,498なので

(20000 / 147498) + (1 - 20000 / 147498) * (65000 / (236000 - 20000)) = 39.5%

うーんツラい。OPT STEM Extensionで3年間就労可能、というのが重要な話だとわかっていただけたのではないでしょうか。


まぁ、アメリカの大学院卒業してない人の確率は

65,000 ÷ (236,000 - 20,000) = 30%

なので、だいぶマシではありますが。


確率がわかったところで、H-1Bビザの「Requirements」です。H-1Bビザを申請するにあたっての必要条件ですね。資格。

H-1Bビザって、誰でももらえるものじゃなかったんです。

https://www.uscis.gov/eir/visa-guide/h-1b-specialty-occupation/understanding-h-1b-requirements


条件1: a valid employer-employee relationship

会社の入社面接に受かって、会社からもらったオファーにサインする、とかですよね。


条件2: A bachelor’s degree or higher degree or its equivalent

アメリカの4年制大学かそれ以上を卒業してないとだめ、なんです。
(実際もっといろいろありますけど)

あ、まだがっかりしないでください。"or its equivalent" がポイントなんです。いまのところ、日本の4年制大学も同等とみなされてます。どこの大学でもいいはずです。


条件3: Your job must be in a specialty occupation related to your field of study

えーと、残念なんですが、日本人のソフトウェアエンジニアは、ここでがっかりする方が多いんじゃないかと。

職業と学業が一致してないとだめ、なんです。

ソフトウェアエンジニアでH-1Bビザを申請するってことは、アメリカの4年制大学のComputer Science学科を卒業してる、ってことなんです。


  • 日本の4年制大学 情報学科卒業 → やったね! クリア!
  • 日本の4年制大学 基礎工学科卒業 → たぶんクリア! 学部英語名に"Engineering"って入ってればいける可能性高いよ!
  • 日本の4年制大学 経済学科卒業 → 申し上げにくいんですが...


みんなが聞いたことない大学でも、情報工学科を卒業してれば条件クリアなんですね。

逆に、みんなが聞いたことある有名大学でも、情報工学科またはそれに匹敵した学科を卒業してなければ、条件クリアできないんです。


しかし、がっかりするのはまだ早い。裏ワザがあるんです。

みなさんのソフトウェアエンジニアとしての職歴、学歴に換算できてしまうんです。

For H-1B purposes, three years of work experience in the field will be considered the equivalent of one year of U.S. university study 

職歴3年 → 学歴1年、ですよ。桃栗三年柿八年ソフトウェアエンジニア十二年。つまり、情報工学科を卒業してなくても、ソフトウェアエンジニアとして12年間働いてれば、アメリカの大学のComputer Science bachelor's degreeを持ってるのと同等になります。うん、長いですね。H-1Bビザって、大変なんですよ。


じゃ、文系学科卒業して、Computer ScienceなUniversity Extensionに行ったらどうなるの?

文系学科卒業して、Computer ScienceなMaster's programに行ったらどうなるの?

あ、オレ文系だけど、情報の単位取ってた! これってトリビア学歴になりませんかね?

弁護士に相談だ。

そもそもMaster's program側にも入学要件があるのでそれにも依存しますしね。


あと、この学歴話、グリーンカード申請時のカテゴリ、EB-2、EB-3にも関わってくるんですけど、いま現在日本人の待ち時間的には、EB-2もEB-3も同じなので、まぁ、あんま関係ないです。


なんか、H-1Bビザ、抽選確率と条件から無理ゲーな話に聞こえてきたんで、次いきましょう次。


(もうひとつ裏ワザがあったりします https://www.uscis.gov/news/h-1b-cap-exemptions-based-relation-or-affiliation 大学やNon profit団体はH-1B Cap Exemptions対象なので、いつでも行けちゃう。それがあなたの望んだ道ならば、ですけど)


L-1Bビザ

赴任で使うやつですけど、あいまいだった審査をきちんとしようということで、最近こんなふうになってます。

https://www.uscis.gov/working-united-states/temporary-workers/l-1b-intracompany-transferee-specialized-knowledge

Specialized knowledge means either special knowledge possessed by an individual of the petitioning organization's product, service, research, equipment, techniques, management, or other interests and its application in international markets, or an advanced level of knowledge or expertise in the organization's processes and procedures

その会社のプロダクトに特化した技術を持ってると審査に通りやすいわけですね。なんかあります?

外資系に入社。そして1年後、マネージャから「ちょっと話あるんだけどさ」なんて言われて、レイオフ!? なんて心配しながら聞いてみると「本社にXXっていうポジションが空いたんだけどさ、OOさん本社行ってみたいって言ってたよね。行ってみる?」なんて言われるわけですよ。月9ドラマですね。アピールアピール。

実際は、複数のエリートたちがごくわずかに限られたポジションを虎視眈々と狙う、血で血を洗う争いが起きてるかもしれないので、調査した上で入社する方がいいかもしれない。

ちなみにL-1Aビザっていう、経営者、管理職用のもあるらしいですけど、ソフトウェアエンジニアって感じじゃないじゃないですか。知らないですけど。ぶっちゃけ、マネージャとかやりたくないじゃないですか。ねぇ。

E-2ビザ

https://travel.state.gov/content/visas/en/employment/treaty.html

If you are not the principal investor, you must be considered an essential employee, employed in a supervisory, executive, or highly specialized skill capacity. Ordinary skilled and unskilled workers do not qualify.

Ordinary skilled and unskilled workers do not qualify」ですからね。実際どのくらいの技術力、ポジションで審査通るのか、それは申請してみてからのお・た・の・し・み!

ソフトウェアエンジニア一般として、じゃなくて「その会社にとって」がポイント。かといって、全員が全員E-2ビザで渡米しました、なんて会社があったとしたらUSCISはどー思いますかね。アメリカに職を作るのと引き換えにE-2ビザが認められてるようなもんなので、日本から連れてきた人じゃなくて、その仕事ってアメリカ人雇えばいんじゃないの? と突っ込まれるわけです。弁護士の腕の見せどころ、かもしれない。


O-1Aビザ

https://www.uscis.gov/working-united-states/temporary-workers/o-1-visa-individuals-extraordinary-ability-or-achievement

Extraordinary ability or achivement ですよ。え、この賞でもいけちゃうの? みたいな話は聞きますが、去年の日本人ビザ発行総数75,700に対して、Oビザ681人だけしか発行されてないですからね。まぁExtraordinaryですよね。

神明さんのブログが詳しいです https://www.jinmei.org/blog/2008/10/19/474


Diversity Visa Lottery

https://www.dvlottery.state.gov/

年末グリーンカードジャンボ宝くじ。毎年10月に書類申請。当たったらグリーンカード申請に進めます。いやー、こんなの当たんないと思うんですけど、実際当たってる人いますね(生存者バイアス)。ただ条件があって、高卒以上、資産がある程度以上、とかです。移民法改正により、まるっとなくなる可能性もあります。

ただ、注意してほしいことがあります。他のビザは、それなりの審査を通り抜けて、学校で学習したか、職を手に入れてから就労ビザを手に入れているわけですが、DV Lotteryは単にくじに当たっただけです。そのあと、会社で入社面接をすり抜けて仕事を手に入れないといけないわけです。どうしましょう。起業してもいいですけど。

アメリカ人との結婚も、ここに分類されるかな。


B-1ビザ/J-1ビザ

「うちに入社すればサンフランシスコオフィスで働けるよ! 入りなよ! え、ビザ? えっとね、わたしはよく知らないんだけど、入社までには聞いときますね。え? いや、大丈夫だって、平気平気。みんなもそうだよ」

なんて会話があったら、要警戒。凄腕弁護士が超奥義でUSCISをねじ伏せるかもしれないし、J-1ビザからH-1Bビザなども不可能ではありませんが、まぁ、そうある話ではないんで、疑ってかかっていいかと思います。下手うつと、アメリカから国外追放される可能性もなくはないです。


ESTA

「サンフランシスコオフィスの話ですけど」
「あ、あれね。ESTAだったかな」
「えっ」
「えっ」


以上。


いやー、こんな難関通り抜けたなんてオレすごい、というより、むしろ、平和な日本に生まれたのに戦地に向かった奇行種、と言われるほうが感覚が近い。

そんじゃーね。